可愛いあの子にくちづけを 「ー。天気いいし、今日の昼中庭で食わねえ?」 「うん、いいよ」 「やった! へへー、すっげーたのしみ!」 「ぐおー、ぐおー……」 「(……あれれのれ? おかしいな)」 とある昼休み。ポカポカと暖かい春の陽気が悪いのか、それとも、ほんの少しだけ遅れてしまったわたしが悪いのか。約束の中庭で待ち受けていたのは、すっかり夢の世界に旅立ってしまっていたジロちゃんの姿だった。 二人分のお弁当の重みが何とも虚しい。手作りのサンドイッチ。トマトが嫌いなジロちゃんのために、結構苦労して作ったのに。(ハムのピンクでどうにか誤魔化したけど、赤がないと大変なんだから。彩りとか) ……少しだけ納得がいかないものの、仕方がない。わたしは当分おあずけとなったサンドイッチを抱えたまま、ジロちゃんの隣にゆっくりと腰を下ろした。 「(まあ、日向ぼっこだと思えば悪くないけど)」 日光をいっぱい吸った芝生をクッションにしながら、ジロちゃんの寝顔をちらりと盗み見る。すやすやと幸せそうな寝息の先には、ふわふわの金髪に長いまつ毛。(羨ましい)ジロちゃんの寝顔は、まるで罪がない赤ちゃんみたいだった。変な意味ではないけれど、ついつい触りたくなる。 「……おーい」 小声で語りかけるようにしながら、ジロちゃんの無防備なほっぺたをつんとつついてみる。ぷにぷにと柔らかくて、そこもまた羨ましい。じゃなくて。起きない。いや別に、無理に起こすつもりもないけれど。 (……もう、起きないジロちゃんが悪いんだからね) 「ふあー……」 「(あ、起きるかな?)おはよ、ジロちゃん」 「んー……? あー……ごめん、寝ちゃってた」 いつもと同じ、起き抜けの大きなあくび。ジロちゃんが目覚めたのは、時間にして約15分後のことだった。……ずっと放っとかれていたことを怒るべきか怒らないべきか、ギリギリ判定が難しいところだったけれど、まあ、この陽気じゃ無理もないかって。 とりあえずは許してあげることにしよう。そう、寛大な心で。 「いいよ、少しだったし。ほら、お昼食べよ」 「あっ! サンドイッチ! 食う食う!」 いまだに抱えたままだったサンドイッチを見るやいなや、ジロちゃんはぐんと、勢いよくその場から起き上がっていた。……色気より食い気なところが若干悲しい気もするけれど、ようやくお昼だ。むしゃむしゃと、トマトなしのサンドイッチをおいしそうに頬張りながらジロちゃんが笑う。 「いや、最初起きたとき夢かと思ったんだよね」 「夢? 何で?」 「んー、出てきてたから」 「うそ、本当? (それはちょっと嬉しい) どんな夢?」 「とちゅーする夢」 「え」 「へへ、せっかくだし正夢にする? なんちって!」 「……」 (本当はとっくに正夢なんだけどね) これぐらいの意地悪なら別にいいかって。……眠っている間にこっそりとしたそれは、あえてわたしだけの秘密にしておこう。 (2008/10/10) |