頭文字G 「よっ、」 「あ、謙也もういたんだ。早いね」 「ふふん、スピードスターやからな。何事も一番乗りや」 「あ、うん……そっか」 夏休みが開始して早々の部活。気分的に、そして、マネージャーとして一応はみんなよりも早めの到着を心掛けていたものの、よっぽどやる気があるのか、部室には既に一番乗りで到着したであろう謙也が待ち構えていた。特に何をしていたわけでもないくせに、なぜだか勝ち誇ったようにどや顔を浮かべている。……まあ、やる気があるのは悪いことではないし、いいけど。別に。 部活の開始三十分前。背中に抱えていたスポーツバッグを床に下ろした、次の瞬間のことだった。 「っ!?」 視界に入っていた時間はわずか0.05秒。けれど、その正体は一目瞭然だった。壁とロッカーの隙間から飛び出してきた、ぬらりと黒光りするキモくて速くてデカい影。なるべくなら遭遇したくないはずなのに、夏場になると屋内屋外問わず、嫌でも遭遇率が上がってしまう……あいつだ。 「ぎゃっ!」 「っ!?」 咄嗟に上げてしまった可愛気のない悲鳴に、何も気づいていない謙也はビクッと肩を跳ねらせていた。 「ちょっと、け、けけけけけけけ」 「おまっ、急にデカい声だすなや! びっくりするや……? つーか、何笑とんねん」 「謙也、って、笑ってないよ! (どんな笑い方すると思ってんのよ) 出た! ゴキ! あそこ!」 「ああ? ゴキ……って、どわっ!? ホ、ホンマや!?」 壁を指してその存在を認識させると、謙也はあたし以上に大袈裟に驚き、そのままズザザと後ずさるようにしながらこちらに寄って来ていた。(ええ、やだ近い。けどまあいいや。いざというときの盾にはなるから) 「え、待って、無理無理無理無理何でいんの何でいんの本当最悪なんだけど、やだやだやだやだ殺して謙也早く早く早く早く」 「!」 あたしは言葉どおり謙也を盾に……いや、謙也の背中の後ろに隠れながら、自分でも驚くくらいの早口でそう捲し立てていた。謙也のジャージをぎゅっと掴みつつ、びくびくと覗き込むようにしながら壁を這うGの様子を窺う。何しろ、部室内での遭遇は三年間で初めてのことだった。多分、誰もが気づかないうちにうっかり外から入り込んでしまっていただけのパターンだとは思う。けれども。 (あっ、これじゃ無理もないかもしれない……) Gに向けた視線を、ほんの一瞬だけ部室全体に移し直す。床に無造作に転がっているテニス道具はまだいい。ただ、ロッカーや棚に入りきらない謎小道具に、おそらく私物であろう漫画や雑誌、CD。とどめとして、中途半端に残っているお菓子やペットボトルまでもがそこら中に散らかっているその環境は、お世辞にも綺麗とは言い難かった。(ああ、そう言えばここ二、三日、掃除はおろか整理整頓さえもうっすらサボってたっけ。確か、Gって埃とかはもちろん、髪の毛とかまで食べちゃうって聞いたことがある。オエ―) ……時既に遅しとは言え、自分たちの怠慢からGにとって最高の環境を作ってしまっていたことをひどく猛省する。もっとも、それはあとできちんと掃除という形で表すとして、今は目の前の敵=Gをどうするかだ。幸いにも、とりあえずは男手である謙也がいる。一刻も早く退治してもらおうと考えたあたしは、そのままそっと謙也の背中を前に押し出したのだけれど。 「?」 いざその背中を押し出してはみたものの(……)、謙也はその場で固まったまま、ぴくりとも動こうとしなかった。 不思議に思いながらもその横顔を覗き込む。普段のイメージ的にそうでもなさそうと勝手に思い込んでいたけれど、まさか虫が、と言うよりGが苦手なタイプだったのだろうか。 「? 謙也?」 「コ、コラッ、! そないくっつくなて、やりにくいやろ」 「!?」 ……実際は、ただただ盾にしていただけ。けれど、意図せずくっつきすぎたせいか、多感な謙也はてれてれとはにかみながら違う意味で固まっていた。(バカ?) 「ちょっと! 何はにかんでんの!」 「痛っ!? ちょお、叩くことないやろ!?」 「こんなときに変なこと考えてるからでしょ! すけべ!」 「いやっ、ちょお待ち! 今は喧嘩しとる場合ちゃうで! 退治や退治! あれや、シューどこやシュー!?」 「ああん、ないよそんなの! 見たことないし、ってゆーかこの状態じゃまず見つからないよ!」 背中を叩いてどうにか正気に(?)戻らせつつ、どてどての部室内からある確率の低い殺虫剤を必死に探す。けれど、そもそも殺虫剤でしか殺せないお坊ちゃんタイプの謙也では話にならなかった。こうなったら、一刻も早く他の誰かに来てほしい。できれば、殺虫剤なんかには頼らず普通にバシッと叩き殺せそうなタイプ。銀さん……あっダメだ、殺生とかしなそう! 千歳! ……いや、千歳は確か蜘蛛だか何だかが苦手って言ってたような気がする。(ってことは、Gもあんまり得意じゃなさそう……)それか、大穴で金ちゃん! ああもう、とにかくGが平気そうで、かつ強そうな誰か……。 (ガチャ) 「こっは……るーんって、何や自分らか」 「(あっ、ダメ! 部内一二を争えそうなぐらい弱そうな人来ちゃった!)」 再び開いた扉の音にハッと視線を向ける。二番目に現れたのは、愛しの小春はおろか、あたしと謙也しかいないこの状況を見て明らかにテンションが下がっているユウジだった。……残念ながら、求めていたそれとはかけ離れている人物だ。どちらかと言えば小柄だし、体格的にもそこまで強そうではない。あるのはせいぜい、無駄な漢気だけ……だけれども。 ……ひょっとしたら、その漢気で意外とGなんてあっさり殺せちゃうタイプかもしれない。一か八かの賭けに出たあたしは、慌ててユウジの元へ駆け寄った。 「ユウジ! で、出た!」 「はあ? 何が出たっちゅーねん、うんこか?」 「うんっ……!? ーっ! 違う! ゴキ!」 ……出だしから最低の発言すぎるものの、とりあえず怒るのは後回しにして。 あたしは謙也のときと同様、壁を指差しながら必死にGの存在を訴えた。 「あん? ゴキィ? ……あー、ホンマや」 一切の躊躇もなく壁に視線を向けられていたあたり、少なくとも謙也よりは肝が据わっているのだろう。壁を這っているGを見たところで、ユウジは大して驚いていないようだった。はたしてそれが漢気かどうかは微妙だけれど、G自体は平気そうなそのリアクションは、思ったとおりビンゴだ。 「平気!? 平気なら殺して! 早く!」 「ああ? じゃかあしいったく、ぶりぶりぶりぶりかわいこぶりよってからに! いちいちギャーギャー騒ぐなや。こんなもん一発でバシーッとやったらええねん、バシーッと」 「……」 チッと面倒くさそうに舌を打つ音が部室内に響く。ただ、うるさいあたしからよっぽど早く解放されたかったのか、ユウジは机の上に放置されていた読みかけの雑誌を手に取り、そのまま手早くくるくると丸めていた。面と向かってのうんこ発言に(……)舌打ち。口も態度も最低すぎるけれど、渋々ながらも一応は殺ってくれそうな流れに、とりあえずは感謝の気持ちを抱く。ところが、次の瞬間。 「……」 「……?」 武器代わりに丸めた雑誌をじっと見つめたまま、ユウジもまた謙也と同様に動かなくなってしまっていた。ちなみに、謙也と違うところは二つ。一つは、そもそもユウジには触れてもいないこと。(もっとも、ユウジの場合は触れたところで喜ばない。むしろ「べたべたひっつくなや!」とか何とか言いながらめちゃくちゃキレられると思う)そしてもう一つは、動きが止まったと言うよりは、ユウジ自らの意志で止めたに近いような反応だったことだ。 ……ええ、せっかく殺ってくれそうだったのに。何何? どうして? 何か機嫌損ねた? 「ユウジ、どうしたの? 早く殺っ」 「はあ……。あかん、小春のためやったらなんぼでも殺したるわって思うねんけど、びびっとるのが自分らや思うとびっくりするぐらいやる気出えへん」 「!?」 丸めた雑誌を持つ手をだらりと降ろしながら、ユウジはそう、力なく溜息をついていた。……別に、小春と比べられたことが女としてどうこうとか、そういう問題ではない。(ってゆーか、そもそも最初から張り合うつもりもない)ただ、この一大事にそんな個人的な感情を持ち込まれても困る。そんな、いくらあたしや謙也が小春じゃないから(?)って。 「はあ? もう、何それ!」 「アホ! おおお俺は別に、びびっとるわけちゃうし!」 「つーかもう放っとけやそんなん。別におったって死ぬわけちゃうし、そのうちどっか行くやろ」 「!?」 ……違う意味での漢気がありすぎたユウジは、ケッと吐き捨てるように壁に背中を向けると、そのまま何事もなかったように座布団の上に座り込んでしまっていた。(放っとくのはもちろん、この状況で普通に座れるとか本当に信じられない) 「ーっ! もうユウジには頼まないからいいもん! ってゆーか謙也、びびってないんでしょ? だったら何とかしてよ」 「いやっ! ホンマびびっとるわけちゃうで? せやけどほら、いつもシュー派やねん、俺」 「だーかーらー! そんなのないんだってば!」 ふりだしに戻り、謙也とのつまらない言い合いが再発する。そうこうしている間にも、キモくて速くてデカいGはいまだにご健在だった。こちらに近づいてきてこそいないものの、カサカサと嫌な感じに壁を這い回るその姿は、もはや挑発にさえ思える。……もう、いっそのことあたしが殺す? いや無理でしょ。普通に。次。もう贅沢は言わない、この二人以外なら誰でもいいから、他の誰か……。 (ガチャ) 「おはようございます」 「!」 ……三番目に現れたのは、一個下の後輩である光だった。(ああんもう、贅沢は言わないって言ったばっかりだけれど、どうして銀さんとか千歳とか強そうな人来ないんだろう!?) 手元には携帯、耳元にはイヤホン。一応挨拶こそしてはいるものの、視線が一切こちらに向いていない時点で今のところはまだこの状況に気づいていないらしい。三度目の正直となるか、はたまた、二度あることは三度あるとなるか。……既に後者の予感が否めないせいか(だってほら、一番現代っ子(?)だし……)いまいち期待はできなかったけれど、謙也やユウジと同様、光にもその存在を訴えかける。 「あ、ひか「大変や財前! ゴキや! ゴキが出よった!」」 「!? (ああん、もう! うるさいっ!)」 「ちょお、朝っぱらからうっさいっすよ謙也さ……うお、ホンマっすわ」 その怪訝そうな表情がGに対してなのか、それとも異常に声の大きい謙也に対してなのかはわからなかったけれど、G自体には光もまたあまり驚いてはいないようだった。……ひょっとすると、思わぬダークホースとして奇跡的に三度目の正直となるのかもしれない。 「光、平気? 平気なら……」 「あ、すんません。俺ゴキとか無理なんで他の人に頼んで下さい(さらり)」 「!? (や、やっぱり!)」 「つーか絵面めっちゃおもろいっすね。ネタになりそうやし、写真撮ってええすか」 「アホ、自分こんなときに……っておわっ! こっち来よった!」 「え、ちょっと待って無理無理無理無理、本当無理! 「「ぎゃあーっ!?」」 ……やっぱり、二度あることは三度あるの方だった。 交渉時間、たったの3秒。その2秒後には、いよいよこちらに向かって迫りくるG。そして、(純粋な恐怖心からとは言え)その更に2秒後には謙也と二人、仲良く手を取り合いながら飛び跳ねる羽目にまでなっていた。 「(……)」 「(ホンマおもろいっすね、この人ら)」 謙也とあたしのくだらないそれに、心底辟易したような表情を見せるユウジ。表情こそ真顔ではあるものの、別の意味で面白がっているのか(?)許可なく勝手に写真を撮る光。そして、共にパニックになる謙也。 ……もう、本当に嫌だ。自分も含め、人間が四人もいたところで誰一人として勝てない。それどころか、たかだかG一匹にここまで振る舞わされるなんて。 迫りくるGから逃げるようにしながら部室の隅に身を寄せる。もはや色々な意味で涙が出そうになっていた、そのとき。 「こらこら、何だかよう知らんけど外まで聞こえとるで」 「何の騒ぎね」 「!」 ……ああ、これこそが待ち望んでいた人物像だって。その複数の声が聞こえた瞬間、あたしは今までの誰の登場シーンよりも早く扉に視線を向けていた。 立っていたのは、実に錚々たるメンバーだった。銀さん(強そう)、千歳(強そう)、金ちゃん(強そう)。そして、白石(部長)。要するに、ほとんど残りのレギュラーたちがいっぺんに現れてくれたのだけれども。 ……正直、今までのパーティーは何だったのだろうか。四度目にしてようやく完成された最強のパーティーに、今度はまた違う意味で涙が出そうになってしまった。 「あーあー。何でもあらへん、が一人でギャーギャー騒いどるだけや」 「!? (もう、ユウジマジで嫌い)」 ひらひらと手を振りながら、さもどうでもいいことのように吐き捨てるユウジを一瞬だけ睨んだあと、扉の方に駆け寄る。 「ああん! 来てくれてありがとう(?) もう誰でもいいからあれ殺して!」 あたしは一番大柄な銀さんと千歳の後ろに隠れつつ、さっきよりも確実に距離を詰めてきているGを指差した。(誰でもいいと言いながらもほぼ無意識のうちに大柄な二人を選んでいたのは、おそらく本能だ。仕方がない) 「ああっ! ゴキブリやあ!」 「うお、ホンマや……って」 「?」 Gの存在に気づき、一応は驚く様子を見せる最強のパーティー軍団。ただ、それと同時にとあることに気づいてしまった白石は、すぐにあたしたちに視線を向け直していた。 「ええ、ちょお待ち。……自分ら、まさかこれであんな大騒ぎしとったん……?」 「「「「……」」」」 ……じっと向けられた何とも言えない視線から、そっと顔を逸らす。改めて冷静にそう言われてしまうと、何だかものすごく恥ずかしくなってきた。けれど。 「はあ……ああもう、ユウジ。その雑誌貸し」 「え! 白石殺せるの?」 「いや、そら好き好んではやりたないけど……誰かがやらなしゃあないやろ」 「! (やだ、さすが部長!?)」 ひどく呆れた様子は窺えつつも、白石はユウジがしたそれと同じように、受け取った雑誌をくるくると丸めながら壁に向かって歩き始めていた。……すごい。実際の白石は単なるテニス部の部長で、場所もただの部室内(それもどてどての……)とは言え、その姿はさながら、戦場に向かっていく勇者のようだった。 色々あったけれど、ようやく長い戦いが終わる。そう、勇者こと白石の登場によってすっかり安心しきっていたあたしは銀さんと千歳の後ろに隠れたまま(……)そっとその行く末を見守ろうとしていた。ところが。 「……」 「? (あれ、金ちゃん何してるんだろ?)」 いまだにGが這っている壁の目の前には、それをじっと観察するようにしながら無言で佇む金ちゃんの姿があった。(どうりで静かだと思った。けど、よくあんなに近くで見れるなあ……強すぎ) そんな金ちゃんに対して、白石が背後から優しく声をかける。 「? ほら金ちゃん、今から退治するんや。そこどいとき」 「なあなあ、白石ぃ!」 「ん?」 「ゴキブリってよう見ると何かカブトムシに似とるなあ!」 「! (カブリエル……!)」 「!?」 今にも振り上げようとしていた白石の左手から、武器である雑誌がバサと音を立てて落下する。……何と言うことだろう。一切の悪意はなかったとは言え、勇者の弱点である呪文をあっさりと唱えてしまったのは、まさかのパーティーの仲間だった。 「ーっ! あかん、俺にはカブリエルを叩き殺すなんてできひん……!」 「えっ!? ちょっとちょっと違うよ白石! それカブトムシじゃない! Gだから普通に!」 慌てて現実に戻そうとするものの、すっかり意気消沈してしまっていた白石の耳にはもはや何も届かなかった。おそらく、ペットであるカブトムシに思いを馳せているのだろう。(ってゆーか何で今このタイミングでそーゆーこと言っちゃうの金ちゃん!?) ……自分が退治できない以上、何を言える立場でもない。ただ、ここに来てふりだしに戻ってしまうことのダメージは、さっきのそれよりもずっと辛くて重いものだった。 心が折れるとは、まさにこのことだろう。いよいよ始末のつかない状況に、頭を抱えかけたそのとき。 「! ちょお待ち。よう見たらもうちょいやし、うまいこといけばこんまま外出せるんとちゃうん?」 「、」 少し離れたところから聞こえた謙也の声に、はたと目を見開く。状況を確認すると、Gはいつの間にか壁を下降し、床の方へと移動していた。扉は運よく開いたまま。なおかつ、Gのいるその場所から扉まで、わずか数十センチ。……確かに、言葉どおりこのまま外に出そうな雰囲気もある。 「お、ホンマや。ほんならいっそそっちでええんとちゃうん?」 「せやな。そのうちどっか行きよるやろうし、自然に外に逃がすでええやろか?」 「えー……」 本音を言えば一秒だって視界に入れたくないし、今すぐ叩き殺して欲しい。(そもそも、逃がしてまた入ってきたらどうすんのよ……)……けれど、仕方がない。何度も言うように自分がそれを退治できない以上は何も言える立場じゃないし、何よりもそのまま逃がしてあげるなんて、ある意味ではピースフルな(?)四天宝寺テニス部らしい選択だとも思った。 「うう……嫌だけどいいよ……」 結局、ひどく矛盾したそれだとはわかっていながらも、あたしは苦渋の重いでそう返事をしていた。 相変わらず大柄な二人の後ろに隠れたまま、扉の方へ向かっていくGの行く末を今度こそそっと見守る。(うう……まだ離れてるからいいけど本当キモい……。絶対方向転換とかしないでほしい)そして、みんなの優しい気持ちとあたしの必死な思いが通じたのか(?)Gはそのまま部室の敷居を跨ぎ、無事に扉の外へと出ていった。 「あ、出ていきよったで」 「ほら、よう頑張ったな。もう大丈夫やで」 「本当? まあ、それなら(よくないけど)よかっ……」 「んっふふ、遅れちゃったわんっと」(ぶちゅっ!) 「「「「「「「!」」」」」」 ……ようやく出ていったGと入れ替わるように現れたのは、四天宝寺テニス部の(自称)アイドルである小春だった。その愛らしい笑顔も、妖精のように軽やかなステップも、いつもと何の変りもない。ただ、遅れて来たばっかりに何も知らない小春のスニーカーの下からは、何だかひどく嫌な音がしていた。 「……」 「? あらやだ、みんなどないしたん?」 「あー小春……。今日はいつもの片足上げてぴょんってするやつやらん方がええで……」 「いや、やってもええ。ええねんけど……その、靴の底は見んときや……」 「?」 (2020/07/20) |