拝啓、俺 十年後の俺、元気ですか。 とりあえず、俺は元気……言いたいとこやけど、昼休みに食らわされたどえらい肩パンのせいでちっとも元気ちゃいます。ちなみに犯人はです。です。 ……せっかくの手紙やっちゅーのにしょっぱなからこんな内容でホンマに情けないんですが、十年後の俺はを覚えとりますか。見てのとおり男に平気で殴る蹴るの暴行を加える えー、気を取り直して。 十年後の俺は何をしとりますか。オトンの後継いで医者……は、ぶっちゃけちっともなれとる気がせえへんけど、まあ、ぼんやりと。今はまだ、なれとったらええなぐらいの感覚です。←そもそも何科だっけ? 産婦人科? ←ちゃうわ! 大好きなテニスはやっとりますか。医者になっとるしにろなっとらんにしろ、社会人っちゅーのは忙しいもんやろうし実際は厳しいかもしれへんけど……。まあ、最悪趣味でもええし、もしやっとらんかったら次の休みの日とかでも久々にやってみて下さい。←やってるんじゃないの? 浪速のスピードスター(笑)だし 友達とはまだつるんどりますか。うちのクラスは雰囲気もええし、今の感じやとクラスの連中は何やかんやつるんどると思っとるんで(多分? あーせやけど、東京とか行く奴もおるんやろうなあ)ここではあえてクラスも学年もちゃう奴らのことを書こうと思います。テニス部として三年間一緒にやってきた自慢の連中です。まあ、俺の希望としては十年後、こいつらとも当たり前のようにつるんどって欲しいんですが。 白石は、十年後もモテとりますか。(モテとるんやろな……別に悔しくあらへんけど!) 千歳は、連絡取れとるっちゅーかそもそも生きとりますか。 小石川は……うん、何か何年経っても変わらん気がする。(安定やな!) 銀は、身長と髪の毛が気になります。 小春は、これ以上あっちの道にいっとりませんか。 ユウジは……んー、小春と同文。あ、物真似タレントとかになっとったらサイン下さい。 財前は、相変わらず生意気……なんやろうな、多分。←財前くんはいいの! 悪口書くな! 金ちゃんは、ええ加減大人になっとりますか。(想像つかへんな、成人した金ちゃん……めっちゃデカなったりしとったらどないしよ) ちなみに全然テニス部の連中ちゃうけど、さっきからちょいちょいこの手紙に茶々入れてきよるとは別につるんでなくてええです。つーかつるみとうない。ホンマにつるみとうないんで、万が一。万が一、十年後の俺がいまだにとつるんどるなんてことしとったら頼むからさっさと縁切って下さい。これはホンマに、現在の俺からの切実な願いです。 あと、十年後っちゅーともしかしたら結婚しとってもおかしないんですよね。 十年後どうなっとるかはわからへんけど、現在の俺はどっちかっちゅーと綺麗系より可愛い系がタイプなんで、できればそのまま可愛らしいタイプの子とゴールインできとったらええなって思っとります。←絶対無理! 一生独身! 20××年 ×月×日 3年2組5番 忍足謙也 「……いや、寒すぎやろ。何やねんこれ」 立地的に特別必要っちゅーわけでもあらへんかったけど、一応。社会経験のためーとか何とか言いながら実家を出て早数年。いつからかとっくに開けることのなくなった学習机の奥底で眠っとったのは、少しだけ色褪せた水色の封筒やった。裏っ側には当時の自分のクラスと名前。でもって、表っ側にはデカデカと書かれた"十年後の自分へ"なんちゅーこっぱずかしすぎる宛名。(ああもう、ホンマ死にたい) ……ぶっちゃけこの時点で嫌な予感しかせえへんかったけど、懐かしさと怖いもん見たさからついつい封を開けてもうたのがあかんかったんやと思う。中に入っとったのは、当時中三やった過去の俺から、十年経った今現在の俺への手紙。ああ、そう言やこんなん書かされたっけかなんて、嫌でも蘇る思い出に顔から火が出そうになる。辛うじて最後まで読み終えたものの、思春期特有の青臭さがふんだんに盛り込まれたその内容は、まさに"十年越しの羞恥プレイ"やった。 「(うわあ、あかん……。俺当時どんな顔してこんなん書いたんやろ。バレへんうちにさっさと捨て)」 「ねー、何それ?」 「! (ひっ!? バレんの早っ!?)」 肩越しにひょいと覗き込まれたそれを咄嗟に隠す。偉そうなわりにどことなく甘えたような口調や仕草は、あの頃とちっとも変わらんもんやった。 声が聞こえてきよるのもそこにおるのも、少なくとも、十年前の実家では絶対ありえへん光景やったはず。せやけど、今となっちゃ何もおかしなく、むしろそれが当然になっとるのがまた不思議なもんで。 「あー……ほれ、中学のとき授業で書かされたやん。十年後の自分への手紙」 「え、そんなの書いたっけ?」 「書いたやろ! つーか強制やなかったら俺かて書かへんてこんなん!」 「いや、それ以前にそもそもそんなの律儀にとっといてあるのがウケるんだけど」 「(ーっ!?) ああもう嫌や! 恥ずっ! めっちゃ恥ずっ!」 「そんなに? どれ、見せてよ」 「!? あかん! こ、これだけは絶対あかん!」 「いいから! どれどれ……!? はあ!? ちょっと、何ゴリラって!」 「(ひっ!?) いやほら、こんなん昔の話やん! 十年前! 十年前やで!」 「……うわ、しかも縁切れとか書いてある」 「! い、いや、せやから……」 「切っていいんだ?」 「切らんで下さいお願いします」 「よし。ふふ」 「(はあ、こないなとこもちっとも変わっとらん……)……しっかし、今更こんなん見つかるとかなあ。……十年前の俺が聞いたら倒れる思うで、ショックで」 「? 何で? 大体合ってるじゃん」 「せやって、可愛らしい子とゴールインって書いてあるやん……一応できたはできたけど、まさか相手が」 「手紙の! 希望どおりの相手と! 結婚できて! よかったでしょ!」 「ぎゃっ!? 痛い痛い痛い! ちょお、顔つねんなや!」 「……や、謙也」 「ちょお、コラッ……やめーや、……」 「? 謙也ってば」 「せやから痛いて……ふへへへ」 「はあ? ちょっと、謙也! いい加減起きな!」(バチン!) 「だあっ!? い、痛っ!? ちょお、ほんま痛っ!?」 背中に走ったどえらい激痛と共に、俺はハッと目を覚ました。 「やっと起きた! ほら、もう授業終わったよ」 「ひっ!? ゴ……あっいや、……(あ、あれ? 何や今の? 夢?)」 視界に飛び込んできよったのは、普通にいつもの教室。でもって、隣におるも、見慣れた制服姿のままやった。 寝起きで朦朧とした意識の中、状況を整理する。(背中が痛すぎて朦朧、っちゅーほどでもあらへんけど。つーか絶対もっとちゃう起こし方あったやろ)多分、例の手紙を思った以上に早う書き終えてもうた俺はそのまま寝てもうたんやと思う。せやからこれは、テレポートとかタイムスリップとかそんな非現実的なもんとちゃう。要するに、今のは全部、授業中の居眠りで見てもうた死ぬほどしょーもない夢やって。わかっとる。わかっとるんやけど。 ……部屋におったときの空気感とか会話のテンポとか、妙にリアルやったこと。ぶっちゃけ夢見自体は悪くあれへんかったこと。何よりも、今見た夢が夢やったっちゅー現実にちょっとがっかりしとる自分に何とも言えへん気持ちになる。ああもう、アホか俺は。何をがっかりしとんねん、何を。 「……あかんあかん。しっかりせえ、俺。ええか? 今のは夢や。それこそ全っ然描いてもあれへんかった未来予想図であって」 必死に首を振りながら、ブツブツと自分自身に言い聞かせる。せやけど。 「もう、さっきから一人で何言ってんの? 大丈夫?」 「!」 ……ああ、こらもう多分、手遅れやって。夢で見たそれとまったく同じ、偉そうなわりにどことなく甘えたような口調や仕草。中途半端な既視感によって十年後の未来が見えてもうた気がした俺は、全てを諦めてぼそりと呟いた。 「……なあ。すごいこと言ってええ?」 「?」 「その……もしかしたら十年後、俺お前と結婚しとるかもしれへん」 「!? はあ!? 何それ超やだ!」 「なっ!? (そ、即答!?) せやから、もしかしたら言うとるやん! つーか今言ったの夢やて! ただのさっき見た夢の話や!」 「えっえっ!? 何? 本当怖いんだけど! 先生! 忍足くんが何か変なこと言ってきます! せんせー!」 (2011/12/01) |