愛はズボン 季節柄しゃあない。一言で解決するそれと言っても、この時期の風の冷たさは拷問に近いもんがある。特に、家と学校との往復中。嫌でもそれに晒されなあかん登下校時はホンマにしんどいし、部分的な防寒はしとっても寒いもんは寒い。(手とか首とかはまだしも、顔面はどうにもでけへんもんなあ。いっそ覆面……って、あかん。何か色々思い出すわ) 「さっぶ!」 「本当、殺すぞってくらい寒いんだけど」 「!?」 仮にも女子やっちゅーのにもかかわらず、下校早々の物騒な発言にぎょっと目を見開く。(何なら微妙に舌打ちまで混じっとった。ホンマおっそろしい) ちなみに、この物騒な発言の張本人であるかてそこそこの、っちゅーより、傍から見たら過剰すぎるぐらいの防寒はしとった。濃淡は違えど、紺色のピーコート以外は全てが真っピンク。耳当てと手袋はさておき、マフラーに至っては異常に長く、顎が埋まってまうほどな重装備中の重装備。 せやのに、何でここまで寒がるんやろなんて思いながら歩いとったそのとき。 「ぎゃっ!?」 「!」 ……ああ、せや。顔面以外も女子にはどうしてもこの寒さに耐えなあかんとこがあったんやて。 ビュウ、と、強めの風によってぶわりと浮き上がったそれを見てようやくその理由に気づく。……にしても、せめてもうちょい可愛らしく「きゃー」とか「やーん」とか言えへんのかとも思うけど。 しがない学生身分である以上、そもそもの格好は同じ学校の制服。せやけど、俺ら男子と女子との絶対的な違い。それはどんなに寒かろうがしんどかろうが、強制的にスカートを履かされなあかん立場っちゅーことやった。 つまり、女子の場合やと顔面プラス、裾んとこから靴下までの推定三十センチ(短すぎっちゅー話や。素晴らし……いや、けしからん)も晒されっぱなしにされる。ぶっちゃけ、校則どころか法レベルのガードで守られとる俺からしたらそのしんどさはわかりたくてもわからへんことやし、いちいち風が吹くたびにその冷たさ、かつギリギリまで浮き上がる裾に反応してまうには単純に悪いとも思う。せやけど。 「うう、本当無理……何これ」 「せ、せやな……」 ……頭の中ではわかっとるつもりでも、視線はついついその三十センチに向いてまう。もちろん、ただただやらしい意味でのそれやない。寒そうやなあとか気の毒やなあとかの意味かて、当然。当然含まれとったやんけど。 「ちょっと、何見てんの」 「(!?) ひっ!?」 ついつい向いてもうたそれに気づいたのか、はスカートを押さえながら鬼の形相で俺を睨みつけとった。 ……あかん。これ絶対俺がやらしい目で見とったみたいになっとる。いやそら、視線が向いっとったのは事実やけどちゃうねん、冤罪や! 冤罪! 「いやっ! べべべ、別に意図的に見とったわけちゃうで!?」 「……見てたんじゃん」 「ちゃう! いや、見とったは見とったけど普通に寒そうやなって意味で見とったんやて! ホンマに!」 何ぼ冤罪とは言え、なまじ根も葉もうっすらあるもんやから気まずくてしゃあない。せやけど、あまりにも必死に否定して余計に怪しなっても具合が悪い。 ……少しだけ間を空けたあと、コホンと、ざーとらしい咳払いを一つする。とりあえずは一度仕切り直し(?)や。 「……あー、じょ、女子は寒いよな。その、スカートやし」 「本っ当、死ぬほど寒いよ……いーよね男子は、制服でもズボンだしさ。ずるい」 「(ホッ、あんま怒ってへん。セーフ)あー……まあせやって見たないやろ、男子の脚とか」 「おいお前やっぱ見てただろ、引くわ」 「!? ちょお、引くなや! (あかん、せっかく話題変えたのに!) いや、つーかあれや。そない寒いんやったら黒タイツとか履けばええやん。流行っとるんちゃうのん? 今」 「あー、確かに履いてる子もいるけどね……制服タイツ。んー、でも個人的に制服にタイツってどーなの感否めなくて」 「あっそれめっちゃわかるわ。絶対生足のがええよな!?」 「ねえ何でお前がわかんの、本当に引くわ」 「!? せやから引くなやって!」 「しっかし、ホンマ寒いなあ……」 相変わらず容赦なく吹きつけてきよる風の中、どうにかこうにか歩き続けること数分。しょーもない会話で一応は気が紛れとったとは言え、やっぱり寒いもんは寒い。(あかん、このままやと鼻水凍りそ) ……ずずと鼻を啜りながら、一つの提案をする。せやけど。 「……どっか寄ってくか」 「うう、寄りたい、めちゃくちゃ寄りたい……。けど今日お昼にジュース買っちゃったからお金50円しかない」 「しゃあない、ほんなら俺が……あっ、俺も70円しかあらへん」 「もう死んでるね、何もかも……」 所持金は、二人合わせたところで120円。口では格好つけて「どっか寄ってくか」なんて言うてみても、カフェやファミレスは論外。それどころか、マクドすら寄れる金額やあらへんかった。(せやってしゃあないやん、学生やもの けんや) ……別に、金使えばええ思っとったわけちゃうけど。とにかく何でもええから暖かなって、んでもって、あわよくば名誉を挽回できるようなチャンスを探しとったそのとき。 「あ」 視界に飛び込んできよったのは、通学路の途中に佇む何てことあらへん自販機やった。 「……なあ、自販の飲みもんでもええ?」 「うん……あったかいの買って半分こしよ」 「えっ!? ははは、半分こ(あかんそれ間接キッ)」 「……待って、何かキモいこと考えてない?」 「いやっ! 考えとらん! ホンマに全っ然考えとらんで!」 少ない所持金でどうにか暖を取るために選んだ苦肉の策。(つーか、もはや選択肢がそれしかなかった)せやけど今は、それが全てやった。 「……、何がええ?」 「ミルクティー」 「ミルクティーなあ……おっ、あったあった」 水、お茶、ジュース、コーヒー。……ずらりと並んだ数種類の缶の中からミルクティーを見つける。冷たいそれは"つめた〜い"やし、暖かいそれは、"あたたか〜い"。……こんくそ寒い中"つめた〜い"のそれなんて死んでも買うたらんし、そもそもいちいち腹立つ感じに伸ばすなやなんて思いながらも"あたたか〜い"のボタンを押す。 「ほれ」 「ありがとー……うわあ、あったかい!」 「……」 言葉どおり"あたたか〜い"それはの表情をころりと変えさせてもうた。数十分前は「殺すぞ」言うとったくせに、手渡したあとはもう、嘘やろってくらいの満面の笑み。……その単純さに色々と思うところはあれど、こくこくと小さく喉を鳴らしていく様子を謎の兄心、いや、むしろ父心(?)のような気持ちで見守る。 「はい、謙也も」 「! ……あー、全部飲んでええよ」 「え、何で? 半分出したんだし(キモいこと考えてないなら)飲みなよ」 「(今何か聞こえたな)や、ホンマ大丈夫やって。寒いんやろ? 気にせんでええて」 寄り道と同様、二度目の格好つけ。もちろん色んな意味でちょい惜しい気もしよるけど、こんときの俺はまた別のことを考えとった。 ホンマに金使えばええと思っとったわけちゃうし、120円で買える手っ取り早い暖(ついでに糖も)かて悪いわけとちゃう。せやけど、これっぽっちでここまで喜んでくれんなら、もっと。単純にもっと喜ばせてやりたいって。 (他何かあらへんかな、金かからんくて暖かなるやつ……) 学校を出てから、既に数十分が経過した今。……今更。それこそ校門を出る前からずっとぶら下げとったそれやから非常に今更やけど、俺はもうワンチャンス狙いでサブバッグの中に手を突っ込んだ。(あらへんとは思うけど)カイロの一つとか、500円玉一枚とか。とにかくもう何でもええからって、ごそごそと奥底まで漁ろうとしたそのとき。 (!) カイロよりも500円玉よりも柔らかい。せやけど、もっと確実な神アイテムとなるその手ごたえに、俺はハッとした。……あかん、何で今まで気づかへんかったんやろ。俺はいつだってどこだって、こんな優秀なもんを持ち歩いとるっちゅーのに。 「……なあ、あかん俺天才かもしれへん」 「え?」 「ほら、寒いんやろ? 脚。そんならこれ履いとき!」 「!?」 自信満々に取り出したそれが、目の前ではたはたとはためく。 全体のベースは黄色。かつ、ところどころアクセントとしてグラデーションの緑色が入っとる部活のジャージ。のズボン。(いわゆるビタミンカラーっちゅーやつやな! 色からして暖かいイメージやし、ホンマ洒落たデザインやわ) 「ん」 若干の照れはあるものの、ミルクティーを手に持ったままぽかんとしとるにそっと、めっちゃ紳士的にそれを差し出す。ホンマに純粋な気持ちやったし、何よりもが喜んでくれる、そう思っとったんやけど。 「……謙也」 「ほら、あっこの公園にトイレあるやろ? これ下に履いてき、待っとるから」 「いやあの、気持ちは嬉しいけど……ごめん、ちょっといいや」 「はあ? ええって、俺との仲やろ? 別に遠慮とか」 「いや遠慮とかじゃなくて、これマジのいいやって意味だから……」 「へっ?」 ……どこをどう間違えたのか、はそれを受け取ることもなく、なぜだか逃げるように俺の元を去って行きよった。 「ええ、いやちょお待ち、何で……あっ、こらっ! どこ行くん!? ! (何でなん!? めっちゃ洒落とるやろこのビタミンカラー!?)」 (2016/01/08) |